葦辺の車家ブログ

自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない車家(くるまや)ゆきとが感じたこと・考えたことをそこはかとなく書き綴ります。

「現在の日韓関係」は本当に「良い」ものなのだろうか。

日韓関係「良い」は13年ぶり50%台に、韓国でも2年連続の4割超え…日韓共同世論調査 : 読売新聞

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現在の日韓関係を「良い」とした人は、日本は50%(前回2023年調査45%)に上昇[……]昨年来、両国政府の関係が良好なことが、国民の意識にも表れたとみられる。

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今後の日韓関係のあり方について、日本では「歴史認識を巡る問題で隔たりがあっても、友好関係を深めた方がよい」が57%で、「歴史認識を巡る問題で隔たりがある限り、友好関係を深めるのは難しい」の41%を上回った。

 

日韓関係「良い」は13年ぶり50%台に、韓国でも2年連続の4割超え…日韓共同世論調査 : 読売新聞

もちろん、日本と韓国の市民が友好関係を深めることは大切ですし、友好関係を深めることで「歴史認識を巡る問題」の「隔たり」を縮めることもできるかもしれません。しかし、日本と韓国の市民が友好関係を深めることは、決して日本人が日帝の不法な朝鮮植民地支配とその下での人権侵害という自国の「負の歴史」を忘れることの「免罪符」になりません。

もしかすると、「歴史認識を巡る問題で隔たりがあっても、友好関係を深めた方がよい」と答えた57%の日本の回答者の中には、日韓間の「歴史認識を巡る問題」を「自分には関係ないこと」だと思っている人も少なからずいるかもしれません。たしかに、日韓間の「歴史認識を巡る問題」は、現在の日本社会に生きる日本人にとっては自分が生まれる前の遠い昔の話かもしれません。しかし、だからといって「自分には関係ないこと」だということにはなりません。

私たちの生きる現在の日本社会では、植民地主義という「負の遺産」が清算されることなく引き継がれています。その結果、「戦後日本」の〈新植民地主義〉によって、日帝の不法な朝鮮植民地支配下での人権侵害である日本軍性奴隷性や日帝強制動員の被害者への真摯な謝罪と法的責任に基づく賠償がなおざりにされ、今もなお被害者の人権が踏みにじられ続けています。これはまさに私たちの生きる現在の日本社会の問題ですが、この問題を解決するためには、「戦後日本」に引き継がれた植民地主義という「負の遺産」を清算するべく、何よりもまずは植民地主義という「負の遺産」を引き継いだ現在の日本社会に生きる日本人が日帝の不法な朝鮮植民地支配とその下での人権侵害の歴史という自国の「負の歴史」と向き合うことが必要不可欠です。つまり、日韓間の「歴史認識を巡る問題」とは、植民地主義という「負の遺産」を引き継いだ現在の日本社会に生きる日本人が日帝の不法な朝鮮植民地支配とその下での人権侵害の歴史という自国の「負の歴史」といかに向き合うかを巡る問題であり、それゆえ現在の日本社会に生きる日本人にとって決して「自分には関係ないこと」ではないのです。おそらく日本人の多くは、日韓間の「歴史認識を巡る問題」を韓国の問題だと思っているのでしょう。しかし、日韓間の「歴史認識を巡る問題」は他ならぬ日本の国家と国民の問題なのです。

現在の日韓関係を「良い」と答えた日本の回答者が50%のぼったことについて、読売新聞は「昨年来、両国政府の関係が良好なことが、国民の意識にも表れたとみられる」と述べています。たしかに、日韓両国の保守政権による「日韓関係の改善」は、日韓両国の国民の間に「友好親善ムード」を生み出したかもしれません。しかし、そうして生み出された「友好親善ムード」は、うわべだけのものにすぎず、日韓両国の保守政権が蓋をしている「歴史問題」が再び噴出すればたちまち冷めてしまうでしょう。

誤解している人が多いようですが、日韓両国の保守政権による「日韓関係の改善」は、日韓の市民同士の友好親善のためのものではありません。岸田首相が「日韓、日米韓の戦略的連携がこれほど必要な時はなく、日韓関係の改善は待ったなしだ」と述べた*1ことや、バイデン米大統領が日韓関係の改善に関して「両首脳の勇気ある業績だ。日米韓の協力関係がより強固になった」と評価した*2ことなどからわかるように、日韓両国の保守政権による「日韓関係改善」の目的は、韓国の民主化と「ろうそく革命」によって生じた、米国主導の戦後東アジア秩序を支える新植民地主義*3的な日韓「1965年体制」*4の綻びを修復し*5、究極的には米国の覇権すなわち米国主導の世界経済体制を守るための米・日・韓三角軍事同盟を維持・発展させることにあります。つまり、日韓両国の保守政権による「日韓関係の改善」は、米・日・韓の権力層や経済的支配層の利益のためのものであって、日韓の市民同士の友好親善のためのものではないのです。また、米国主導の戦後東アジア秩序を支える新植民地主義的な日韓「1965年体制」は、日帝の不法な朝鮮植民地支配の責任問題を棚上げにし、日帝の不法な朝鮮植民地支配下での人権侵害である日本軍性奴隷性や日帝強制動員の被害者を犠牲にして成り立つものですから、その修復である日韓両国の保守政権による「日韓関係の改善」に際しても日本軍性奴隷性や日帝強制動員の被害者は犠牲にされます*6

そのような日韓両国の保守政権による平和と人権をなおざりにした「日韓関係の改善」によってもたらされた現在の日韓関係は、たしかに日韓「1965年体制」が支える米国主導の世界経済体制の恩恵にあずかっている日韓の権力層や経済的支配層、あるいは日帝の不法な朝鮮植民地支配とその下での人権侵害という自国の「負の歴史」を忘れたい日本人にとっては「良い」ものなのかもしれません。しかし、そのような平和と人権をなおざりにした日韓関係が本当に良いものだとは、私には到底思えません。

*1:日韓、日米韓の戦略的連携がこれほど必要な時ない=岸田首相 | ロイター

*2:バイデン氏、日韓首脳の訪米を招請 3カ国の首脳会合で | 毎日新聞

*3:新植民地主義(シンショクミンチシュギ)とは? 意味や使い方 - コトバンク

*4:“「六五年体制」とは、日本(佐藤栄作政権)と韓国(朴正煕政権)が調印した韓日基本条約や四つの協定にもとづいた、現在の韓日関係の出発点となる体制を指す。第一には米国を頂点とする垂直的系列化を基盤とする韓米日擬似三角同盟体制(日米同盟と韓米同盟)である。[……]第二にはこの同盟体制を維持し、その安定性を高めるため歴史問題の噴出を物理的暴力で抑圧するか、コントロール可能な領域におく。”(権赫泰『平和なき「平和主義」』)

*5:米国主導の戦後東アジア秩序を支える新植民地主義的な関係である日韓「1965年体制」は、その維持のために韓国の強圧的な政権を必要としますが、しかし、1987年の韓国の民主化は、強圧的な政権を倒して日韓「1965年体制」に綻びを生じさせました。そして、その綻びは李明博朴槿恵政権という保守政権によって修復されたものの、文在寅政権を生み出した2016~17年の「ろうそく革命」は、再び日韓「1965年体制」に綻びを生じさせました。つまり、日本の岸田政権と韓国の尹錫悦政権による「日韓関係の改善」とは、「ろうそく革命」によって生じた日韓「1965年体制」の綻びを修復することなのです。

*6:

「『慰安婦』問題日韓合意」の真の目的は、日本軍性奴隷制被害者の救済ではない。 - 葦辺の車家ブログ

被害者の尊厳を蔑ろにして加害者を免責する「解決策」では、日帝強制動員問題は決して解決しない。 - 葦辺の車家ブログ