葦辺の車家ブログ

自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない車家(くるまや)ゆきとが感じたこと・考えたことをそこはかとなく書き綴ります。

被害者の尊厳を蔑ろにして加害者を免責する「解決策」では、日帝強制動員問題は決して解決しない。

徴用被害者「物乞いするような金は受け取らない」 韓国政府解決策に反発 | 聯合ニュース

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まず忘れてならないのは、日帝強制動員問題(徴用工問題)は日帝による朝鮮植民地支配下における被告企業による人権侵害についての責任問題であり、すなわちそれは徹頭徹尾日本の被告企業と日本政府の責任問題であるということです。しかるに、今般発表された「解決策」は加害者である日本の被告企業を免責するものであり*1、このような「解決策」は論外と言わざるを得ません。

日帝強制動員被害者である梁錦徳さんが「物乞いをしてもらうような賠償金は受け取らない」と述べたことからもわかるとおり、日帝強制動員問題は決して「カネで解決できる問題」ではありません。つまり、日帝強制動員問題を真に解決するためには、口先だけの「反省とおわび」*2ではなく、日本の被告企業と日本政府が日帝による朝鮮植民地支配の不法性と日本の被告企業の法的責任を認めたうえで被害者に対して真摯に謝罪することが必要不可欠なのです。

今般発表された「解決策」は、決して日帝強制動員被害者の人権回復を真の目的とするものではありません。「現下の戦略環境も踏まえ、日韓、日米韓の戦略的連携を一層強化していく必要がある」*3という岸田首相の言葉や「米国の最も緊密な同盟国である二つの国が、画期的で新しい、協力と連携の一章を開くことを示すものだ」*4というバイデン米大統領の言葉からわかるとおり、今般発表された「解決策」の真の目的は、韓国の民主化と「ろうそく革命」によって生じた日韓「1965年体制」*5の綻びを修復し*6、究極的には米国の覇権すなわち米国主導の世界経済体制を守るための米・日・韓三角軍事同盟を維持・発展させることにあります。つまり、今般発表された「解決策」は、日帝強制動員被害者の人権を回復するどころか、むしろ米・日・韓の権力層や経済的支配層の利益のために日帝強制動員被害者の人権を犠牲にするものなのです。岸田氏は今般発表された「解決策」を「日韓関係を健全な関係に戻すためのもの」だと言いますが、日帝強制動員被害者の犠牲の上に成り立つような「日韓関係」が、はたして本当に「健全な関係」なのでしょうか。

今般発表された「解決策」のような、被害者の尊厳を蔑ろにして加害者を免責する「解決策」では、日帝強制動員問題は決して解決しません。日帝強制動員問題を真に解決するための最善かつ唯一の方法は、被告企業が韓国大法院の判決を誠実に履行し*7、日本政府が日帝による朝鮮植民地支配の不法性を認めて被告企業による判決の誠実な履行を妨げず、そして被告企業と日本政府が日帝強制動員被害者に対して真摯な謝罪をすることです。

*1:徴用被害者側「政府の解決策は加害企業の免責」 - KBS WORLD

*2:口先だけの「反省とおわび」なら意味がない。 - 車家ブログ Kurumaya Blog

*3:岸田首相「日韓関係を健全に戻すもの」 徴用工問題の解決策を評価 [徴用工問題]:朝日新聞デジタル

*4:バイデン氏「米の緊密な同盟国間の新章」 元徴用工「解決策」を歓迎 [徴用工問題]:朝日新聞デジタル

*5:“「六五年体制」とは、日本(佐藤栄作政権)と韓国(朴正煕政権)が調印した韓日基本条約や四つの協定にもとづいた、現在の韓日関係の出発点となる体制を指す。第一には米国を頂点とする垂直的系列化を基盤とする韓米日擬似三角同盟体制(日米同盟と韓米同盟)である。[……]第二にはこの同盟体制を維持し、その安定性を高めるため歴史問題の噴出を物理的暴力で抑圧するか、コントロール可能な領域におく。”(権赫泰『平和なき「平和主義」』)

*6:新植民地主義的な関係である「日韓65年体制」は、その維持のために韓国の強圧的な政権を必要としますが、しかし、1987年の韓国の民主化は、強圧的な政権を倒して「日韓65年体制」に綻びを生じさせました。そして、その綻びは李明博朴槿恵政権という保守政権によって修復されたものの、文在寅政権を生み出した2016~17年の「ろうそく革命」は、再び「日韓65年体制」に綻びを生じさせました。つまり、日本の岸田政権と韓国の尹錫悦政権による「日韓関係の改善」とは、「ろうそく革命」によって生じた「日韓65年体制」の綻びを修復することなのです。

*7:強制徴用被害者たち「三菱は賠償を直ちに履行せよ」 : 政治•社会 : hankyoreh japan