葦辺の車家ブログ

自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない車家(くるまや)ゆきとが感じたこと・考えたことをそこはかとなく書き綴ります。

「『慰安婦』問題日韓合意」という日韓両保守政権の「妥協の産物」(「『日韓右派共闘』の目的はどこにあるか。」の補足)

yukito-ashibe.hatenablog.com

先般韓国で放送された、韓国情報機関と日本の極右団体の癒着を告発したMBC「PD手帳」で名指しされた*1日本の大物右翼の櫻井よしこ氏は、いわゆる「『慰安婦』問題日韓合意」を「両国(日韓)関係を改善し、日米韓の協力を容易にした」と肯定的な評価を与えています*2。この「日韓関係=日韓65年体制」を改善し、「日米韓の協力=米日韓三角(軍事)同盟」を容易にするというのは、まさしく2021年8月12日の拙記事で述べた「日韓右派共闘」の目的とするところです。

もっとも、櫻井氏は、「『慰安婦』問題日韓合意」が「日韓関係を改善し、日米韓の協力を容易にした」ことを「しかし、それは短期的外交勝利にすぎない。……長期的に見れば安倍首相発言で日本は以前よりさらに重い課題を背負い込んだのである」とも述べており、「『慰安婦』問題日韓合意」を手放しで称賛しているわけではありません。

そして、櫻井氏と同じく極右の歴史修正主義者である安倍晋三前首相にとっても、「『慰安婦』問題日韓合意」は決して本意に沿うものではなかったはずです。事実、安倍氏の支持層からは反発もありました。しかし、それでも(当時の)安倍政権が妥協したのは、「歴史問題」に再び蓋をすることで、韓国の民主化によって生じた(新植民地主義的な)「日韓65年体制」をの綻びを修復し、(「日韓65年体制」が支える)「米日韓三角(軍事)同盟」を維持・発展させる必要があったからでしょう(なお、日韓両国の保守政権は、「『慰安婦』問題日韓合意」の翌年である2016年に「日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)」を締結しました。*3)。もしかすると、それは安倍氏にとって靖国参拝で「盟主」アメリカを失望させた*4失敗を挽回する意味もあったのかもしれません。

他方、当時の韓国の保守政権である朴槿恵政権が、内政上のリスク*5を冒してまで妥協に応じたのは、やはり安倍政権と同様、「歴史問題」に再び蓋をすることで「日韓65年体制」の綻びを修復し、「米日韓三角(軍事)同盟」を維持・発展させる必要があったからでしょう。

このように、「『慰安婦』問題日韓合意」というのは、つまるところ「歴史問題」に再び蓋をすることで「日韓65年体制」の綻びを修復し、「米日韓三角(軍事)同盟」を維持・発展させるための、日韓両保守政権の「妥協の産物」です。すなわち、それは日本軍性奴隷制被害者の救済を真の目的とするものでは決してなく、「米日韓三角(軍事)同盟」の維持・発展を究極の目的とするものだということです。そして、このことから分かるように、「日韓の歴史問題」は、良くも悪くも「盟主」アメリカの意向に左右されるところがあります。それゆえ、櫻井氏ら日本の右派が展開する「歴史戦」において、今やアメリカが「主戦場」なのでしょう*6。しかし、そもそも日本軍性奴隷制問題は、「米日韓三角(軍事)同盟」という「帝国の論理」に翻弄されてはならないものです。なぜなら、日本軍性奴隷制問題は、政治の問題ではなく人権の問題だからです。日本では、右派だけでなく、リベラル派にも「『慰安婦』問題日韓合意」を肯定的に評価する人がいます*7。しかし、日本軍性奴隷性被害者の真の救済を犠牲にして「米日韓三角(軍事)同盟」を維持・発展させること、すなわち人権を犠牲にして「帝国」の利益を図ることは、まさしく日本のリベラル派が批判する「日帝の論理」です。「『慰安婦』問題日韓合意」を肯定的に評価する日本のリベラル派は、それを分かった上で「米日韓三角(軍事)同盟」のおためごかしにすぎない「『慰安婦』問題日韓合意」を肯定的に評価しているのでしょうか。