葦辺の車家ブログ

自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない車家(くるまや)ゆきとが感じたこと・考えたことをそこはかとなく書き綴ります。

徴用工問題について論じた朝日新聞の社説を読んで思うこと

(社説)尹大統領会見 日韓の行動で打開を :朝日新聞デジタル

www.asahi.com

上掲の日帝強制動員問題(徴用工問題)について論じた朝日新聞の社説ですが、私はこの社説を肯定的に評価することができません。これが日本を代表する「リベラル紙」の社説か、と思うと残念な気持ちになりますが、「リベラル紙」といっても所詮は日本の「リベラル紙」だということなのでしょう。

韓国の司法では、被告の日本企業に賠償を命じた判決が確定している。一方の日本政府は法的に解決済みとしており、もし企業の資産が現金化されれば、厳しく報復する構えだ。

その事態を避ける狙いを念頭に、尹氏は演説で「日本が憂慮する問題と衝突せず、債権者が補償を受けられる案を今深く講じている」と述べた。

この発言は、日本企業に損害を与えずに被害者の救済にあたる考えを示唆しており、これまで以上に踏み込んでいる。

朝日新聞は、被告の日本企業に賠償を命じた韓国大法院判決の執行を「日本企業の損害」と捉えています。しかし、韓国大法院判決の執行を「日本企業の損害」と捉えるのは間違いです。韓国大法院判決の執行は、日帝による朝鮮植民地支配下における日本企業の反人道的な不法行為によって損害を受けた日帝強制動員被害者に対する司法的救済であり、それによって日本企業が受ける不利益は「損害」ではありません。しかるに、日帝強制動員被害者に対する司法的救済を日本企業に損害を与えるものと捉えるのは、司法に対する冒涜です。

歴代政権は談話などで、植民地支配に対する謙虚な思いを表明してきた。

たしかに、歴代政権は、口先では植民地支配に対する謙虚な思いを表明してきたかもしれません。しかし、そうした表明とは裏腹に、歴代政権、特に安倍政権以降の自民党政権は、日帝による朝鮮植民地支配の美化あるいは正当化に腐心してきました。その最たるものが、日帝強制動員問題と日本軍性奴隷制(日本軍「慰安婦」)問題の正当化あるいは矮小化*1です。こうした日本政府の「植民地支配に対する謙虚な思い」の表明と矛盾する傲慢な態度が、日帝強制動員問題の解決を困難にしているのです。

その姿勢を再確認するとともに、3年前に実施した韓国向けの輸出規制強化措置の解除に向けた手続きを始めてはどうか。
もともと徴用工問題で動かない韓国政府への報復として実行した措置だ。

「3年前に実施した韓国向けの輸出規制強化措置」を「もともと徴用工問題で動かない韓国政府への報復として実行した措置だ」と言う朝日新聞は、大きな勘違いをしています。日帝強制動員問題は、日帝の植民地支配による加害の問題です。したがって、それは当然のことながら、加害者である日本側の責任で解決すべきものです。つまり、「徴用工問題で動かない韓国政府への報復として実行した措置」には何の理もなく、それは韓国に対する経済侵略にほかなりません。かかる経済侵略は、日帝強制動員問題に関係なく直ちにやめるべきです。

アジア太平洋の情勢が複雑さを増すなか、日韓には多くの共通課題があることを忘れてはなるまい。ともに安全保障で米国と同盟関係にある一方、中国経済との結びつきが強い。台湾海峡北朝鮮問題は、協調対処することが理にかなう。

日韓に今必要なのは、大局を見据えた関係づくりである。

これは要するに、「米日韓三角(軍事)同盟」を維持・発展させるために、日韓両政府は日帝強制動員問題について適当なところで妥協しろ、ということです。

韓国の保守政権である尹錫悦政権が「日韓関係改善」に強い意欲を示す*2のは、進歩派政権である文在寅政権によって生じた「日韓65年体制」の綻びを修復し、「米日韓三角(軍事)同盟」を維持・発展させるためです。そして、そのためには、新植民地主義的な日韓関係である「日韓65年体制」を不安定にする歴史問題の噴出に蓋をする必要があります。しかし、政治の問題ではなく人権の問題である日帝強制動員問題は、「米日韓三角(軍事)同盟」を維持・発展させるためという「帝国の論理」に翻弄されてはならないものです。しかるに、日帝強制動員被害者の真の救済を犠牲にして「米日韓三角(軍事)同盟」を維持・発展させること、すなわち人権を犠牲にして「帝国」の利益を図ることは、まさしく朝日新聞とその読者層であるリベラル派が批判する「日本帝国主義の論理」です。

日帝強制動員問題を解決するための最善かつ唯一の方法は、加害者である日本企業が不法行為責任を認めて謝罪するとともに韓国大法院判決を誠実に履行し、日本政府が日帝による朝鮮植民地支配の不法性を認めて日本企業による判決の誠実な履行を妨げないことです。それは、本当に戦後の日本が日帝による朝鮮植民地支配を「深く反省」しているのであれば*3、決して難しいことではないはずです。

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