葦辺の車家ブログ

自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない車家(くるまや)ゆきとが感じたこと・考えたことをそこはかとなく書き綴ります。

日帝強制動員(「徴用工」)問題は未だ決着していない。

社説:「徴用工」決着から1年 日韓協力の裾野広げたい | 毎日新聞

mainichi.jp

朝日新聞と並んで「リベラル紙」とされる毎日新聞は、2024年3月5日朝刊の社説で「『徴用工』決着から1年」との見出しを掲げています。しかし、2023年3月6日に韓国の尹錫悦政権が「解決策」を発表した後も被害者や被害者の遺族が加害者である日本企業に対して謝罪と賠償を求め続けている*1ことに鑑みれば、日帝強制動員問題が未だ決着していないことは明らかです。

日帝強制動員問題は、尹錫悦政権が示した「解決策」では決して解決できません。なぜなら、尹錫悦政権が示した「解決策」の真の目的は、日帝強制動員被害者の尊厳を回復することではなく、「現下の戦略環境も踏まえ、日韓、日米韓の戦略的連携を一層強化していく必要がある」*2という岸田首相の言葉や「米国の最も緊密な同盟国である二つの国が、画期的で新しい、協力と連携の一章を開くことを示すものだ」*3というバイデン米大統領の言葉からわかるとおり、韓国の民主化と「ろうそく革命」によって生じた日韓「1965年体制」*4の綻びを修復し*5、究極的には米国の覇権すなわち米国主導の世界経済体制を守るための米・日・韓三角軍事同盟を維持・発展させることだからです。つまり、尹錫悦政権が示した「解決策」は、米・日・韓の権力層や経済的支配層の利益のために、加害企業の法的責任とは無関係な金銭で被害者や遺族の口を封じて日帝強制動員問題に蓋をしようとするものなのです。岸田首相は尹錫悦政権が示した「解決策」を「日韓関係を健全に戻すもの」だと言いますが、日帝強制動員被害者の犠牲の上に成り立つような「日韓関係」が、はたして本当に「健全な関係」なのでしょうか。毎日新聞は上掲の社説で「関係改善の流れを逆戻りさせてはならない」と言いますが、日韓両国の保守政権による「関係改善」が実のところ「継続する植民地主義」の体制である日韓「1965年体制」の克服を志向する動きに対する反動であることを考えると、日韓両国の保守政権による「関係改善」はむしろ日本と韓国の真の関係改善の流れを逆戻りさせるものだといえます。

日帝強制動員問題を考える上で忘れてならないのは、日帝強制動員問題は日帝による朝鮮植民地支配下における加害企業による人権侵害についての責任問題であり、すなわちそれは徹頭徹尾日本の加害企業と日本政府の責任問題であるということです。つまり、日帝強制動員被害者である梁錦徳さんの「物乞いをしてもらうような賠償金は受け取らない」「必ず、謝罪を先にしてからほかのすべてを解決すべき」*6という言葉からもわかるとおり、日帝強制動員問題は決して「カネで解決できる問題」ではなく、その真の解決のためには、日本の加害企業と日本政府が日帝強制動員の法的責任を認めて真摯に謝罪と賠償を果たすことが不可欠なのです。

*1:日本企業に勝訴した元徴用工が涙「日本に謝罪してほしい」=韓国ネット「こんなに苦しんでいるのに…」

徴用被害者遺族が不二越の株主総会に出席 謝罪と賠償求める | 聯合ニュース

*2:岸田首相「日韓関係を健全に戻すもの」 徴用工問題の解決策を評価 [徴用工問題]:朝日新聞デジタル

*3:バイデン氏「米の緊密な同盟国間の新章」 元徴用工「解決策」を歓迎 [徴用工問題]:朝日新聞デジタル

*4:“「六五年体制」とは、日本(佐藤栄作政権)と韓国(朴正煕政権)が調印した韓日基本条約や四つの協定にもとづいた、現在の韓日関係の出発点となる体制を指す。第一には米国を頂点とする垂直的系列化を基盤とする韓米日擬似三角同盟体制(日米同盟と韓米同盟)である。[……]第二にはこの同盟体制を維持し、その安定性を高めるため歴史問題の噴出を物理的暴力で抑圧するか、コントロール可能な領域におく。”(権赫泰『平和なき「平和主義」』

*5:新植民地主義的な関係である「日韓65年体制」は、その維持のために韓国の強圧的な政権を必要としますが、しかし、1987年の韓国の民主化は、強圧的な政権を倒して「日韓65年体制」に綻びを生じさせました。そして、その綻びは李明博朴槿恵政権という保守政権によって修復されたものの、文在寅政権を生み出した2016~17年の「ろうそく革命」は、再び「日韓65年体制」に綻びを生じさせました。つまり、日本の岸田政権と韓国の尹錫悦政権による「日韓関係の改善」とは、「ろうそく革命」によって生じた「日韓65年体制」の綻びを修復することなのです。

*6:徴用被害者「物乞いするような金は受け取らない」 韓国政府解決策に反発 | 聯合ニュース