葦辺の車家ブログ

自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない車家(くるまや)ゆきとが感じたこと・考えたことをそこはかとなく書き綴ります。

日帝強制動員問題(徴用工問題)の解決は、「国益の観点から、国民のため」にするものではない。

尹氏は韓国政府が6日に発表した徴用工の訴訟の問題をめぐる「解決策」について、「国益の観点から、国民のため」に下した結論だと強調した。

 

日本に「ふさわしい行動期待」 合意空文化の懸念、尹大統領の答えは [徴用工問題]:朝日新聞デジタル

日帝強制動員問題(徴用工問題)は、日帝による朝鮮植民地支配下における被告企業による人権侵害についての責任問題です。つまり、それは政治・外交問題ではなく、日帝強制動員被害者の人権問題です。それゆえ、日帝強制動員問題の解決は、人権尊重の観点から、日帝強制動員被害者のためにすべきものであって、「国益の観点から、国民のため」にするのは間違っています(そもそも、日帝強制動員問題を解決する責任を負っているのは日本の被告企業と日本政府です*1。)。

このように、尹錫悦政権の「解決策」が日帝強制動員被害者の人権回復を真の目的とするものではないことは明らかです。それでは、この「解決策」は一体誰の・何のためのものでしょうか。思うに、尹錫悦政権の「解決策」を評価する「現下の戦略環境も踏まえ、日韓、日米韓の戦略的連携を一層強化していく必要がある」*2という岸田首相の言葉や「米国の最も緊密な同盟国である二つの国が、画期的で新しい、協力と連携の一章を開くことを示すものだ」*3というバイデン米大統領の言葉に鑑みれば、今般発表された「解決策」の真の目的は、韓国の民主化と「ろうそく革命」によって生じた日韓「1965年体制」*4の綻びを修復し*5、究極的には米国の覇権すなわち米国主導の世界経済体制を守るための米・日・韓三角軍事同盟を維持・発展させることにあります。つまり、尹錫悦政権の「解決策」は、米・日・韓の権力層や経済的支配層の利益のためのものなのです。そして、それは米・日・韓の権力層や経済的支配層の利益のために日帝強制動員被害者の人権を犠牲にするものなのです。先に述べたように、日帝強制動員問題の解決は、人権尊重の観点から、日帝強制動員被害者のためにすべきものですから、米・日・韓の権力層や経済的支配層の利益のために日帝強制動員被害者の人権を犠牲にするような「解決策」では、決して日帝強制動員問題を真に解決することはできません。

もっとも、このような「解決策」であっても、日帝強制動員被害者の人権問題をなおざりにした「日韓友好親善」ムード作りには役立つかもしれません。しかし、そのような日帝強制動員被害者の犠牲の上に成り立つような「日韓友好」が、はたして日本と韓国の人民同士の真の友好関係であるといえるでしょうか。

*1:徴用工問題は、徹頭徹尾日本の被告企業と日本政府の責任問題である。 - 車家ブログ Kurumaya Blog

*2:岸田首相「日韓関係を健全に戻すもの」 徴用工問題の解決策を評価 [徴用工問題]:朝日新聞デジタル

*3:バイデン氏「米の緊密な同盟国間の新章」 元徴用工「解決策」を歓迎 [徴用工問題]:朝日新聞デジタル

*4:“「六五年体制」とは、日本(佐藤栄作政権)と韓国(朴正煕政権)が調印した韓日基本条約や四つの協定にもとづいた、現在の韓日関係の出発点となる体制を指す。第一には米国を頂点とする垂直的系列化を基盤とする韓米日擬似三角同盟体制(日米同盟と韓米同盟)である。[……]第二にはこの同盟体制を維持し、その安定性を高めるため歴史問題の噴出を物理的暴力で抑圧するか、コントロール可能な領域におく。”(権赫泰『平和なき「平和主義」』)

*5:新植民地主義的な関係である「日韓65年体制」は、その維持のために韓国の強圧的な政権を必要としますが、しかし、1987年の韓国の民主化は、強圧的な政権を倒して「日韓65年体制」に綻びを生じさせました。そして、その綻びは李明博朴槿恵政権という保守政権によって修復されたものの、文在寅政権を生み出した2016~17年の「ろうそく革命」は、再び「日韓65年体制」に綻びを生じさせました。つまり、日本の岸田政権と韓国の尹錫悦政権による「日韓関係の改善」とは、「ろうそく革命」によって生じた「日韓65年体制」の綻びを修復することなのです。