葦辺の車家ブログ

自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない車家(くるまや)ゆきとが感じたこと・考えたことをそこはかとなく書き綴ります。

「慰安婦判決は国際法違反」という日本政府の主張は、どこが間違っているか。

菅首相「韓国は国際法上の違反 是正措置を」韓国での判決受け | 日韓関係 | NHKニュース

 

日本政府に日本軍性奴隷制被害者への賠償を命じたソウル中央地方法院の判決について、日本政府は、当該判決を「国際法上、主権国家は他国の裁判権には服さないのが決まり」であり「国際法に違反する、常識では考えられない判決」*1だと言い立てています。そして、これを批判的に報じる日本のマスメディアは、皆無に等しい状態です。

結論から言えば、今般の判決を「国際法に違反する」と断言するのは正しくありません。

たしかに、国際法上、国家及びその財産は、一般に外国の裁判権から免除されるという「主権免除の原則」が存在します。しかし、この原則は絶対的なものではなく、主権行為には主権免除が適用されるが私法的行為には適用されないとする制限免除主義が現在の国際的な潮流であり*2、韓国の裁判所はもちろん(大法院1998年12月17日判決)、日本の裁判所もこれを採用しています(最高裁判所平成18年7月21日第二小法廷判決)。つまり「国際法上、主権国家は他国の裁判権には服さないのが決まり」というのは絶対的なものではないのです。

もっとも、今般の判決は、日本軍性奴隷制という日帝による人権侵害行為を私法的行為ではなく主権的行為であるとしています。しかし、だからといって今般の訴訟が主権免除の例外に当たらないと結論付けるのは早計です。なぜなら、国際法上の強行規範に違反する重大な人権侵害行為が国家によって行われた場合、それが主権的行為に該当するか否かに関係なく、国家の裁判権免除は否定されるとする有力な見解があるからです*3。今般の判決も、「本件行為は……当時日本帝国により計画的、組織的に広範囲に行われた反人道的犯罪行為であって国際強行規範に違反するものあり、当時日本帝国により不法占領中であった韓半島内において我が国民である原告らに行われたものであって、この行為が国家の主権行為であったとしても国家免除を適用することはできず、例外的に大韓民国の裁判所が被告に対する裁判権があるというのが妥当である」と判示しています*4。かかる見解は、当該判決が指摘するように、主権免除の原則の趣旨が「主権国家を尊重しみだりに他国の裁判権服従しないようにする意味を有するものであり、絶対規範(国際強行規範)に違反し他国の個人に大きな損害を与えた国家が国家免除理論の背後に隠れ、賠償と補償を回避できる機会を与えるために形成されたものではない」点に鑑みても、理にかなうものであるといえます。

もちろん、ソウル中央地方法院が採用した法律構成も、数ある法律構成のうちのひとつです。しかし、それは「慰安婦判決は国際法違反」というのが絶対的真理であることの理由にはなりません。

このように、「国際法上、主権国家は他国の裁判権には服さないのが決まり」というのは絶対的なものではなく、主権免除を否定することが必ず国際法に違反するというわけではないので、今般の判決を「国際法に違反する」と断言することはできません。日本政府は勘違いをしていますが、「国際法上、主権国家は他国の裁判権には服さないのが決まり」というのは、それだけでは決して今般の判決が「国際法に違反する」ことの理由にはならないのです。しかるに、日本政府が今般の判決を「国際法上、主権国家は他国の裁判権には服さないのが決まり」であり「国際法に違反する、常識では考えられない判決」だと言い立てるのは、つまるところ「韓国は非常識な国だ」という印象操作で韓国を貶めたいのでしょうが、それはあまりに稚拙で不見識と言わざるを得ません。

己の不見識を恥じるどころか、なおも「(今般の判決のせいで)国際法上も2国間関係上も、到底考えられない異常な事態が発生した」と言い立てる日本政府ですが*5、本当に異常なのは、政府の閣僚や高官が「慰安婦判決は国際法違反だ」などといい加減なことを言い、それをマスメディアが無批判に垂れ流す日本の状況です。そして、人権という国際社会共通の普遍的な価値*6に鑑みて本当に非常識なのは、日本軍性奴隷制被害者の人権救済を軽んじる日本政府の態度です。

 

参考

japan.hani.co.kr

www.thenewstance.com

justice.skr.jp