あしべの自由帳

芦部ゆきとが言いたいことを書き綴るだけの、そんな「自由帳」です。

なぜヘイトスピーチやヘイトクライムが後を絶たないのか。

「不法移民の―」 3公園で新たに差別落書き発見 川崎 | カナロコ by 神奈川新聞

 

本年7月1日にヘイトスピーチに罰金刑を科す全国初の条例が施行された川崎市で、在日コリアンを標的としたヘイトクライム(差別に基づく犯罪)が相次いで発生しています。もしかすると、日本人の中には「落書きを『ヘイトクライム』だと呼ぶのは大げさだ」と言う人がいるかもしれません。しかし、在日コリアンをおとしめる差別落書きは「いたずら」では済まされない、れっきとした犯罪行為です。このような卑劣な犯罪行為を、私は決して許しません。

ヘイトクライム以外にも、川崎市では条例施行後も排外主義団体による卑劣なヘイトデモが繰り返し行われています*1。警察の過剰警備は、まるでやりたい放題の差別主義者たちを守っているかのようです。

それにしても、なぜ罰則付きの厳しい条例のある川崎市で、卑劣なヘイトスピーチヘイトクライムが後を絶たないのでしょうか。これに関しては、条例の運用に不十分な点があることを指摘する声が上がっています*2

たしかに、ここまで民族差別に蝕まれてしまった日本社会では、川崎市のような罰則付きの差別禁止条例はもはや必要不可欠であり、これが適切に運用されればヘイトスピーチヘイトクライムの抑止効果が期待できるでしょう。しかし、それはあくまでも「対症療法」です。例えば、ヘイトデモで垂れ流されるヘイトスピーチの内容を見ると、その多くが在日コリアンの国外追放を訴えるものであったり、朝鮮学校を差別するものであったり、あるいは日本軍「慰安婦」被害者を誹謗中傷するものであったりするものです。また、排外主義団体による「拉致問題」の悪用*3も、日本政府やマスメディアが煽り立てる「『北朝鮮』悪魔視」がそれを許容しているといえます。そして、毎日のようにマスメディアが韓国や朝鮮に対する敵意と蔑視を煽り立てることで、日本社会の支配的価値観と言っても過言ではない、民族差別を「是」とする価値観が強化されています。つまり、日本政府の差別政策や歴史修正主義、そしてマスメディアが煽り立てる韓国や朝鮮に対する敵意と蔑視が、ヘイトスピーチヘイトクライムを誘発、助長するのです。

昨今の差し迫った状況に鑑みれば、刑罰法規でヘイトスピーチヘイトクライムを禁圧する必要があることに、もちろん異存はありません。しかし、ヘイトスピーチヘイトクライムを生み出す日本社会の差別構造と、それを是とする日本社会の支配的価値観を変えなければ、刑罰法規でヘイトスピーチヘイトクライムを禁圧したところで、「イタチごっこ」にしかなりません。刑罰法規で「対症療法」を施しながらも、日本社会の差別構造とそれを支える価値観を克服する「根本治療」に取り組むことが肝要です。

どうやら、ヘイトスピーチヘイトクライムを「ごく一部の差別主義者」だけの問題だと思っている人は少なくないようです。たしかに、街頭でヘイトスピーチを垂れ流したり、実際にヘイトクライムに手を染めるのは「ごく一部の差別主義者」かもしれません。しかし、ヘイトスピーチヘイトクライムの根底にある日本社会の差別構造とそれを支える「朝鮮蔑視観」は、日本社会のマジョリティ一人ひとりにとって決して無関係ではないのです。残念ながら、ヘイトスピーチヘイトクライムに眉をひそめながらも、日本社会の差別構造とそれを支える「朝鮮蔑視観」にはまるで無頓着なマジョリティは皆無ではありません。

罰則付き条例の第一義は、もちろんヘイトスピーチの禁圧でしょう。しかし、それにとどまらず、ヘイトスピーチが犯罪行為という許されざる悪であることを明確にした点に、私は大きな意義を見出します。近代以降、民族差別を「是」とする価値観が支配したきた日本社会の差別構造を変えるためには、民族差別が許されざる悪であることを明確にすることで、民族差別を「是」とする支配的価値観をこわすことが必要なのです。