葦辺の車家ブログ

自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない車家(くるまや)ゆきとが感じたこと・考えたことをそこはかとなく書き綴ります。

アメリカのヘイトクライムは、日本にとって決して他人事ではない。

日本人に被害も…アジア系“ヘイトクライム”急増か|テレ朝news-テレビ朝日のニュースサイト

 

昨今のアメリカで急増しているヘイトクライムは、日本にとって決して他人事ではありません。

もしかすると、日本人の多くは「欧米では日本人もヘイトクライムの対象であるアジア人だから、決して他人事ではない」と思うかもしれません。しかし、ここで私が言いたいのは、そういうことではありません。もちろん、在米日本人や日系アメリカ人の生命・身体の安全が危険にさらされていることに鑑みれば、「欧米では日本人もヘイトクライムの対象であるアジア人だから、決して他人事ではない」というのは決して軽視してはならないことですが、それは私がいまさら言うまでもないことです。ここで私が言いたいのは、日本社会のマジョリティである日本人が加害者となる同様のヘイトクライムが、日本でも起こりうるということです(誤解のないように繰り返しますが、ヘイトクライムによって在米日本人や日系アメリカ人の身体・生命の安全が危険にさらされていることを、私は決して軽視していません。日本社会で生活する日本人が、白人社会のマイノリティである日本人や日系人の抱くヘイトクライムへの恐怖を想像することは、本当に大切なことです。ただ、私が本稿で日本人が日本においてヘイトクライムの加害者となりうる可能性を強調するのは、日本社会で生活する日本人は、ともするとそれを忘れがちだからです。もっとも、「中国人や韓国人と違って、日本人は欧米でも差別されない」などと言う日本人は、日本人が欧米でヘイトクライムの被害者になりうる可能性すら忘れているかもしれませんが。)。

アメリカにおけるヘイトクライム急増の背景には、「新型コロナを持ち込んだのが中国人だとの偏見が拡大」したことがあると言われています。しかし、私が思うに、アトランタで発生したヘイトクライムの容疑者が自身のフェイスブックに「(中国は)今の時代の最大の悪」と書き込んでいたことに鑑みると、その根底には中国を「『文明的で理性的なわれわれ』とは異なる『野蛮な悪魔の国』」であるとする、中国に対する「悪魔視」があります。もちろん、アトランタで発生したヘイトクライムの容疑者が囚われている「『武漢ウイルス』陰謀論」をまき散らしたのは、前政権のトランプ氏やポンペオ氏であり、バイデン政権はヘイトクライムを明確に非難しています*1。しかし、中国敵視を一向に改めようとしない*2バイデン政権下のアメリカも、「中国悪魔視」と決して無縁ではないでしょう。

同様に、日本も中国や朝鮮に対する「悪魔視」と決して無縁ではありません。すなわち、日本でも、政府やマスメディアが中国や朝鮮に対する「悪魔視」を煽り、国民の多くがそれに煽られて中国や朝鮮を悪魔視しています。そして、戦後日本の「国是」と言っても過言ではない「(北)朝鮮悪魔視」は、既にこれまでいくつもの卑劣なヘイトクライムを引き起こしています*3。私は、先に「日本社会のマジョリティである日本人が加害者となる同様のヘイトクライムが、日本でも起こりうる」と述べましたが、これはいささか不正確です。すなわち、日本社会においてヘイトクライムは、まさに「今ここにある危機」なのです。日本政府も、「ヘイトスピーチ、許さない」*4と民族差別に反対するメッセージを発しています。しかし、いくら民族差別に反対するメッセージを発したところで、政府やマスメディアが中国や朝鮮に対する「悪魔視」を煽り、国民の多くがそれに煽られて中国や朝鮮を悪魔視する限り、ヘイトクライムを引き起こす危機は決して解消されないでしょう。

私は、決して「中国や朝鮮の政権を批判するな」と言うつもりはありません。私が言いたいのは、中国や朝鮮を「『文明的で理性的なわれわれ』とは異なる『野蛮な悪魔の国』」であるとする、中国や朝鮮に対する悪魔視をやめるべきだということです。日本政府やアメリカ政府による中国や朝鮮への「批判」は、もはや「批判」の域を超えて中国や朝鮮を悪魔視するものであると言わざるを得ません。「批判」がヘイトクライムを引き起こすというのは、まさにその証左です。

繰り返しますが、政府やマスメディアが中国や朝鮮に対する「悪魔視」を煽り、国民の多くがそれに煽られて中国や朝鮮を悪魔視している日本社会のマジョリティである日本人にとって、ヘイトクライムは決して他人事ではありません。ましてや、アトランタで発生したヘイトクライムの容疑者が自身のフェイスブックに書き込んだような言葉を、いまだに政治家が平気で口にするような日本ですから、なおさらです。日本社会のマジョリティである日本人(誤解のないように繰り返しますが、日本社会で生活する日本人のことであり、「白人社会」のマイノリティである日本人のことではありません。)は、昨今のアメリカにおけるヘイトクライムを通じて、アジア人である日本人が「白人社会」でヘイトクライムの被害者になりうることを想像するだけでなく、日本人が日本社会で「『われわれ』とは異なる、野蛮なアジア人」として悪魔視する民族に対するヘイトクライムの加害者になりうることも想像する必要があります。