葦辺の車家ブログ

自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない車家(くるまや)ゆきとが感じたこと・考えたことをそこはかとなく書き綴ります。

本当に必要なのは、「日韓関係の改善」の名を借りて新植民地主義的な日韓「1965年体制」を修復することではない。

(社説)日韓の首脳外交 改善の歩みを止めるな:朝日新聞デジタル

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日韓関係は、岸田首相と尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の間で大きく改善した。これを首脳同士の個人的な関係に終わらせてはならない。改善の歩みを揺るぎないものに定着、深化させる努力が両国に求められる。

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歴史問題などで戦後最悪とも呼ばれるまでに悪化した日韓関係は、一昨年に大統領に就任した尹氏が対日重視を鮮明にし、改善に向け大きく動き出した。岸田首相もそれに呼応し、両氏の対面での首脳会談は計12回に及ぶ。

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北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍拡に直面するアジアの安保環境、ロシアのウクライナ侵攻で揺れる国際秩序を踏まえれば、民主主義の価値観を共有する日韓が結束する重要性は論をまたない。

 

(社説)日韓の首脳外交 改善の歩みを止めるな:朝日新聞デジタル

「日韓関係は、岸田首相と尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の間で大きく改善した」と述べる上掲の朝日新聞社説ですが、日韓両国の保守政権による「日韓関係の改善」とは、いったいいかなるものなのでしょうか。

おそらく日本国民の多くは、日韓両国の保守政権による「日韓関係の改善」を「日韓両国の市民同士の友好親善」と同義であると思っているでしょう。しかし、日韓両国の保守政権による「日韓関係の改善」と日韓両国の市民同士の友好親善は、似て非なるものです。

岸田首相が「日韓、日米韓の戦略的連携がこれほど必要な時はなく、日韓関係の改善は待ったなしだ」と述べた*1ことや、バイデン米大統領が日韓関係の改善に関して「両首脳の勇気ある業績だ。日米韓の協力関係がより強固になった」と評価した*2ことなどからわかるように、日韓両国の保守政権による「日韓関係改善」の目的は、韓国の民主化と「ろうそく革命」によって生じた、米国主導の戦後東アジア秩序を支える新植民地主義*3的な日韓「1965年体制」*4の綻びを修復し*5、究極的には米国主導の世界経済体制すなわち米国の世界覇権を守るための戦争を準備・遂行する上で重要となる米・日・韓三角軍事同盟を維持・発展させることにあります。つまり、日韓両国の保守政権による「日韓関係の改善」は、米・日・韓の権力層や経済的支配層の利益のためのものであって、日韓両国の市民同士の友好親善のためのものでは決してないのです。また、米国主導の戦後東アジア秩序を支える新植民地主義的な日韓「1965年体制」は、日帝の不法な朝鮮植民地支配の責任問題を棚上げにし、日帝の不法な朝鮮植民地支配下での人権侵害である日本軍性奴隷性や日帝強制動員の被害者を犠牲にして成り立つものですから、その修復である日韓両国の保守政権による「日韓関係の改善」に際しても日本軍性奴隷性や日帝強制動員の被害者は犠牲にされます。事実、朝日新聞の社説が肯定的に評価する日韓両国の保守政権による「日韓関係の改善」の過程では、日帝強制動員の被害者が米・日・韓の権力層や経済的支配層の利益のために犠牲にされました*6

このような日韓両国の保守政権による平和と人権をなおざりにした「日韓関係の改善」が、はたして日本と韓国の真の友好親善の実現に資するものなのでしょうか。たしかに、日韓両国の保守政権による「日韓関係の改善」は、日韓両国の国民の間に「友好親善ムード」をそれなりに生み出したかもしれません。しかし、そうして生み出された「友好親善ムード」は、うわべだけのものにすぎず、日韓両国の保守政権が蓋をしている日帝の不法な朝鮮植民地支配とその下での人権侵害の歴史をめぐる問題が再び噴出すればたちまち冷めてしまうでしょう。

上掲の朝日新聞社説は「歴史問題などで戦後最悪とも呼ばれるまでに悪化した日韓関係」と言いますが、朝日新聞社説が「日韓関係」の悪化の大きな一因として挙げている「歴史問題」とは、日帝の不法な朝鮮植民地支配とその下での人権侵害の歴史をめぐる問題であり、それは他ならぬ日本が責任をもって解決しなければならない問題です。つまり、「日韓関係」を戦後最悪とも呼ばれるまでに悪化させたのは、韓国の文在寅前政権ではなく、日帝の不法な朝鮮植民地支配下での人権侵害である日本軍性奴隷性や日帝強制動員の被害者への真摯な謝罪と法的責任に基づく賠償がなおざりにし、今もなお被害者の人権を踏みにじり続けている日本の政府と戦犯企業、そして日帝の不法な朝鮮植民地支配とその下での人権侵害の歴史という自国の「負の歴史」と向き合うことをなおざりにしている多くの国民なのです。

日本軍性奴隷制問題や日帝強制動員問題といった、日帝による不法な朝鮮植民地支配を背景とした人権侵害の問題が、日本と韓国の真の友好親善を実現にするために乗り越えるべきものであるとして、それは日本の政府あるいは戦犯企業が法的責任を認めて謝罪し賠償することで容易く乗り越えることができるものです。つまり、日本と韓国の真の友好親善を実現にするために本当に必要なのは、「日韓関係の改善」の名を借りて新植民地主義的な日韓「1965年体制」を修復することではなく、むしろ日帝の不法な朝鮮植民地支配とその下での人権侵害の歴史をめぐる問題に蓋をして平和や人権をなおざりにする「継続する植民地主義」の体制である日韓「1965年体制」を克服することなのです。

*1:日韓、日米韓の戦略的連携がこれほど必要な時ない=岸田首相 | ロイター

*2:バイデン氏、日韓首脳の訪米を招請 3カ国の首脳会合で | 毎日新聞

*3:新植民地主義(シンショクミンチシュギ)とは? 意味や使い方 - コトバンク

*4:“「六五年体制」とは、日本(佐藤栄作政権)と韓国(朴正煕政権)が調印した韓日基本条約や四つの協定にもとづいた、現在の韓日関係の出発点となる体制を指す。第一には米国を頂点とする垂直的系列化を基盤とする韓米日擬似三角同盟体制(日米同盟と韓米同盟)である。[……]第二にはこの同盟体制を維持し、その安定性を高めるため歴史問題の噴出を物理的暴力で抑圧するか、コントロール可能な領域におく。”(権赫泰『平和なき「平和主義」』)

*5:米国主導の戦後東アジア秩序を支える新植民地主義的な関係である日韓「1965年体制」は、その維持のために韓国の強圧的な政権を必要としますが、しかし、1987年の韓国の民主化は、強圧的な政権を倒して日韓「1965年体制」に綻びを生じさせました。そして、その綻びは李明博朴槿恵政権という保守政権によって修復されたものの、文在寅政権を生み出した2016~17年の「ろうそく革命」は、再び日韓「1965年体制」に綻びを生じさせました。つまり、日本の岸田政権と韓国の尹錫悦政権による「日韓関係の改善」とは、「ろうそく革命」によって生じた日韓「1965年体制」の綻びを修復することなのです。

*6:徴用被害者「物乞いするような金は受け取らない」 韓国政府解決策に反発 | 聯合ニュース