葦辺の車家ブログ

自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない車家(くるまや)ゆきとが感じたこと・考えたことをそこはかとなく書き綴ります。

「韓国文化を楽しむ」ことは、日本人が自国の加害の歴史を忘れることの免罪符にはならない。

久しぶりに日韓関係において明るい話題が多い中、やや気になる動きがある。一部の日本の若者の間で、「韓国文化を楽しむには日本の植民地支配への反省が必要だ」という考え方が一定の支持を得ていることだ。文化を楽しむにも、加害者と被害者という構図にとらわれなければならないのか。こうした発想は、日韓関係を本当に好転させるのだろうか。

 

【記事を削除しました】 韓国文化を楽しむなら加害の歴史に向き合うべきか | | 毎日新聞「政治プレミア」

毎日新聞の大貫智子記者はどうも勘違いをしているようですが、「日本の植民地支配への反省」は、日本人が「韓国文化を楽しむ」かどうかにかかわらず必要なことです。そして、「韓国文化を楽しむ」日本人が自国の加害の歴史に向き合うべきことは、決して「加害者と被害者という構図にとらわれ」ることではありません。なぜなら、日本軍「慰安婦」(日本軍性奴隷制)問題や徴用工(日帝強制動員)問題といった加害の歴史の問題は、日帝による不法な朝鮮植民地支配を背景とした人権侵害の歴史の問題であり、つまりそれは日本人が向き合うべき自国の「負の歴史」の問題であるだけでなく、一人の人間として向き合うべき人権の問題だからです。

「韓国文化を楽しむには日本の植民地支配への反省が必要だ」という発想は、たしかに日韓両国の保守政権が改善したい「日韓関係」、すなわち米国主導の世界経済体制を構築・発展させることを究極の目的とする「日韓関係」*1を好転させることはないでしょう。それというのも、そのような「日韓関係」すなわち「1965年体制」*2は、日帝による不法な朝鮮植民地支配を背景とした人権侵害の被害者の犠牲の上に成り立つものだからです。しかし、そのような「日韓関係」の改善は、米・日・韓の権力層や経済的支配層の利益のために行われるものであって、日韓の人民同士の友好親善のために行われるものではありません。そして、日帝による不法な朝鮮植民地支配を背景とした人権侵害の被害者の犠牲の上に成り立つような「日韓友好」は、決して真の友好関係ではありません。

「純粋に韓国文化を楽しみたい日本人」は、しばしば「政治と文化は別だ」と言います*3。大貫記者も、きっとそう思っているのでしょう。しかし、「韓国文化を楽しむ」ことを日本人が自国の加害の歴史を忘れることの免罪符にすることは、「政治と文化は別」であるどころか、むしろ「文化の政治利用」です。そして、そもそも「韓国文化を楽しむ」ことは、決して日本人が自国の加害の歴史に向き合うことと相容れないものではありません。日本人の中にも、自国の加害の歴史に向き合いながら韓国文化を楽しんでいる人は少なからずいるはずです。「韓国文化を楽しむにも日本の加害の歴史を直視する必要がある」というのは、大貫記者が言うような「文化を楽しむにも、加害者と被害者という構図にとらわれなければならない」ということではなく、「韓国文化を楽しむ」ことを、日本人が自国の加害の歴史を忘れることの免罪符にしてはならないということなのです。

私自身が韓国文化を楽しんでいる人間ですし、私は日本人が韓国文化を楽しむことそれ自体を非難するつもりはありません。私が問題にしているのは、日本人が韓国文化を植民地主義的に消費することです。日本では、例えば日本軍性奴隷制の被害者を支援するブランドを愛用する人気K-POPアーティストがマスメディアに煽られたファンに「反日だ」とバッシングされることがあります*4。そういうことを平気でする日本のファンは、言葉は悪いですがアーティストを「日本のファンに癒しを与えてくれる従順なペット」だと勘違いしているのでしょうが、そんな傲慢な勘違いを生み出すのも植民地主義的な文化消費なのです。「純粋に」韓国文化を楽しみたいと言う日本人は、韓国文化を「純粋に」愛するのであればこそ、「韓国文化を楽しむ」ことを自国の加害の歴史を忘れることの免罪符にせず、自国の加害の歴史と真摯に向き合い、植民地主義を克服しなければなりません。日本人が、自国の加害の歴史と真摯に向き合い、植民地主義を克服することは、「韓国文化を楽しむ」かどうかにかかわらず一人の日本人、さらには一人の人間として必要なことであり、そして、それは決して日本人が自国の加害の歴史に向き合うことと相容れないものではないのです。

www.otsukishoten.co.jp

*1:日韓両国の保守政権が志向する「日韓関係の改善」と日韓の人民同士の友好親善は、似て非なるものである。 - あしべの自由帳

*2:“「六五年体制」とは、日本(佐藤栄作政権)と韓国(朴正煕政権)が調印した韓日基本条約や四つの協定にもとづいた、現在の韓日関係の出発点となる体制を指す。第一には米国を頂点とする垂直的系列化を基盤とする韓米日擬似三角同盟体制(日米同盟と韓米同盟)である。[……]第二にはこの同盟体制を維持し、その安定性を高めるため歴史問題の噴出を物理的暴力で抑圧するか、コントロール可能な領域におく。”(権赫泰『平和なき「平和主義」』)

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*3:政治とは別モノ。韓国文化は日本の若者の「必修科目」になりつつある(原田 曜平) | 現代ビジネス | 講談社(1/6)

*4:『モーニングショー』が「マリーモンド」を“反日ビジネス”と嫌韓フェイク報道! 元慰安婦・性暴力被害者支援ブランドを攻撃|LITERA/リテラ