葦辺の車家ブログ

自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない車家(くるまや)ゆきとが感じたこと・考えたことをそこはかとなく書き綴ります。

日本が核廃絶の先頭に立つべきなのは「唯一の戦争被爆国」だからではない。(前記事の補足)

憲法前文には「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼し」とある。唯一の戦争被爆日本こそ、核廃絶の先頭に立つべきである。

 

【主張】唯一の戦争被爆国日本こそ、核廃絶の先頭に – 全国保険医団体連合会

 

yukito-ashibe.hatenablog.com

前記事で述べたように、「唯一の戦争被爆国」の論理は、(「日本人」だけに限定されない)「人」ではなく「日本という国」を原爆被害者のポジションに置き「日本という国」の戦争被害を強調することで日本の加害の歴史を忘れさせる、いわば忘却のための「被爆ナショナリズム」です。それゆえ、日本が核廃絶の先頭に立つべき理由として「唯一の戦争被爆国」という「被爆ナショナリズム」を持ち出すべきではありません。

思うに、日本が核廃絶の先頭に立つべきなのは、「唯一の戦争被爆国」だからではなく、日本が犯した侵略戦争あるいは植民地支配への深い反省に基づく「平和憲法」があるからです。かつて日本は、アジア諸国を侵略あるいは植民地支配し、アジア諸国の「国民(人民)が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」を侵害しました。それゆえ、日本が再び同じ過ちを犯すことがないように「全世界の国民(人民)が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認」した*1平和憲法」があるわけですが、核兵器は「全世界の国民(人民)が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」に対する現代における最も深刻な脅威の一つだといえます。つまり、日本が犯した侵略戦争あるいは植民地支配への深い反省に基づく「平和憲法」を持つ日本は、「平和憲法」が保障する「全世界の国民(人民)が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」を実現すべく、核廃絶の先頭に立つべきなのです。

「全世界の国民(人民)が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」に対する脅威は、日本が敵視する中国やロシア、朝鮮(DPRK)の核だけではありません。日本がその傘の下にいるアメリカの核も、「全世界の国民(人民)が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」に対する脅威であることに変わりはありません。それゆえ、日本が核廃絶の先頭に立つのであれば、何よりもまず日本はアメリカの「核の傘」と訣別する必要があります。「全世界の国民(人民)が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」を脅かすアメリカの「核の傘」の下から日本が核廃絶を訴えたところで、それは欺瞞でしかありません。

前述したように、日本が核廃絶の先頭に立つべきなのは、日本が犯した侵略戦争あるいは植民地支配への深い反省に基づく「平和憲法」があるからです。しかし、戦後の日本は、「平和憲法」があるにもかかわらず、ベトナム戦争(1960~75年)やイラク戦争(2003~11年)といったアメリカの侵略戦争に加担してきました。そして、いまや世界有数の強大な軍事力を持つ*2軍事大国となった日本は、2015年に戦争法*3が制定されたことによって、「集団的自衛権」の名の下に*4世界最強の軍事力を誇る唯一の軍事超大国であるアメリカの侵略戦争に参加できるようになりました。つまり、日本が核廃絶の先頭に立つべき根拠となる「平和憲法」がすっかりないがしろにされてしまっているのです。それゆえ、日本が核廃絶の先頭に立つのであれば、アメリカの「核の傘」と訣別することに加え、平和主義を徹底してアメリカ帝国主義と訣別し、そして日本軍国主義あるいは日本帝国主義を克服することがぜひとも必要なのです。

*1:日本国憲法(前文)

日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。

日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

*2:2023 Japan Military Strength

*3:戦争法案 強行採決

*4:「集団的自衛権」が実行可能段階に 安保法成立7年 米軍と初の実動訓練、識者は「権力の暴走」を懸念:東京新聞 TOKYO Web