あしべの自由帳

芦部ゆきとが言いたいことを書き綴るだけの、そんな「自由帳」です。

「逮捕」に関する誤解について

逮捕されないのは「上級国民だから」なのか? 池袋と神戸の暴走事故、違いがネットで物議。その背景は

https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/kobe-ikebukuro

 

「逮捕」は、刑罰ではなく、あくまでも捜査手続のひとつであって、「逮捕の必要」(逃亡または罪証隠滅のおそれ)*1がなければ逮捕すべきではありません。そして、このことは、被疑者が世間の人々が「上級国民」と呼ぶブルジョアであっても変わりません。したがって、今般の池袋の事件について「逃亡または罪証隠滅のおそれがあるだろうに、どうして警察はI氏を逮捕しないのか。まさか、警察はI氏がブルジョアだから特別扱いしているのか」と批判するのであればまだしも、「I氏は人を轢き殺しても『上級国民』だから逮捕されず無罪放免なのか」と非難することは、「逮捕」を刑罰と誤解するものであって妥当ではありません。刑罰には被害者や社会の処罰感情を満たす効果もあるでしょうが、「逮捕」は刑罰ではありませんから、「逮捕」を被害者や社会の処罰感情を満たすためのものと考えるのは間違いです。被害者や社会の処罰感情の充足は、「逮捕」の要否とは別に考えるべき話です。

もっとも、市民が「逮捕」を被害者や社会の処罰感情を満たすためのものと誤解してしまうのは、市民が法を知らないからというよりも、むしろ警察による逮捕権の運用に問題があるからだと私は思います。つまり、思うに今般の問題は、「ブルジョアだから逮捕されない」ということよりも(例えば、ブルジョアであってもカルロス・ゴーン氏にような外国人は逮捕されます)、むしろ「逮捕の必要」のない“懲罰的逮捕”が横行しているということです。今般の池袋の事件と比較される、神戸のバス事故*2に関しても、現行犯逮捕にも「逮捕の必要」が要件となると解する通説に従えば、(自殺防止を考慮する必要はあるとしても)事故を起こした運転士を逮捕せず任意捜査で進めるべきだと考えることもできるのではないでしょうか。

“懲罰的逮捕”の最たるものは、沖縄での、芥川賞作家・目取真俊さんの逮捕*3や、山城博治沖縄平和運動センター議長の逮捕・長期勾留*4です。もしかすると、「『上級国民』であるI氏は逮捕されないのに、『上級国民』ではないバス運転士は逮捕されるのは不公平だ」と言う市民の中には、目取真俊さんや山城博治の不当逮捕に関しては「悪いことをした“極左”は逮捕されて当然だ」と思う人も意外といるのではないでしょうか。しかしながら、「悪いことをしたのだから、逮捕されて当然だ」という認識が、そもそも間違っています。市民がかかる認識を形成してしまう大きな要因としては、マスメディアによる事件報道や、「警察24時 悪い奴らは全員逮捕だ!」といったマスメディアを利用した警察のプロパガンダを挙げることができるでしょう。つまり、市民が警察による“懲罰的逮捕”を容認してしまうのは、市民が法を知らないからというよりも、むしろ権力の側が、市民が法を知ることを妨げ、“懲罰的逮捕”を容認するように仕向けているといえます。

今般の池袋と神戸の事件での警察による逮捕権の運用について、世間の人々が憤りを覚えるのは分からなくもありません。被疑者の社会的属性が「逮捕の必要」の判断に少なからず影響を及ぼしている事実は、一概に否定はできないでしょう。しかし、それでも私は、世間の人々に、「逮捕」を被害者や社会の処罰感情を満たすためのものと誤解するのをやめるようにお願いしたいです。なぜなら、沖縄や釜ヶ崎をはじめとした日本のさまざまな場所で、尊厳ある人間として生きるために国家の理不尽な暴力に抵抗する人民が、警察の理不尽な暴力にさらされているからです。「逮捕」は、決して“正義の鉄槌”などではなく、本来的に国家による人権侵害です(それゆえ、「法の適正な手続」によらなければならないのです。)。人身の自由が原則であること(憲法31条、33条)、および「逮捕」は捜査手続のひとつであって刑罰ではないこと、どうかこの二点だけは決して忘れないでください。刑事司法が「中世レベル」だと国連拷問禁止委員会で酷評される*5ようなこの国では、「逮捕」の本来の趣旨を逸脱した、必要のない“懲罰的逮捕”は、あなたや私にとって決して他人事ではないのですから。

 

 

*1:刑事訴訟規則
(明らかに逮捕の必要がない場合)
第143条の3 逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。

*2:

www.asahi.com

*3:

ryukyushimpo.jp

*4:

ryukyushimpo.jp

*5:

www.huffingtonpost.jp