葦辺の車家ブログ

自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない車家(くるまや)ゆきとが感じたこと・考えたことをそこはかとなく書き綴ります。

日本軍性奴隷問題は、外交問題ではない。

(社説)日韓合意 順守こそ賢明な外交だ:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/DA3S13293399.html

 

朝日新聞のこの社説は、「ひどい」の一言に尽きます。朝日新聞は、韓国に対してどうしてそのような傲岸不遜な態度をとることができるのでしょうか。否、むしろ相手が韓国だからこそ、そのような傲慢な態度をとることができるのでしょう。「文氏は……理性的な外交指針を築く覚悟が求められている」などと、他者を「非理性的」であると規定するのは、まさしく植民地主義者の手口です。朝日新聞は、「外交交渉は、片方の言い分だけがとおることはない」などと「正論」を振りかざすで、さも自らは「理性的」だと言いたげですが、それならば、今回の韓国の調査チームの調査によって明るみに出た「裏合意」*1が、いかに日本の言い分を韓国に押し付けたものであるかも容易に分かるはずですが……。

もっとも、「核となる精神は、元慰安婦らの名誉と尊厳を回復することにある」というのは、たしかにその通りです。しかるに、どうしてそれに続けて「文政権は合意の順守を表明し……」などと言えるのでしょうか。思うに、それは朝日新聞が、「日韓合意」の問題性を正しく理解していないからです。このことは、当該社説の翌日に掲載された箱田哲也論説委員(署名はありませんが、おそらく当該社説を執筆したのも箱田氏でしょう)の「社説余滴」で、「(文政権は)前政権がやったことはすべて悪だと短絡的に決めつける」などと述べている*2ことからも推察することができます。「日韓合意」は、「前政権(朴槿恵政権)がやったこと」だから問題視されているのではありません。箱田氏は、どうしてそのような短絡的な捉え方しかできないのでしょうか。朝日新聞は、文政権に「合意の意義を尊重する賢明な判断を求め」る前に、自らが日本軍性奴隷問題の本質を理解すべきです。日本軍性奴隷問題の本質を理解していれば、「順守こそ賢明な外交だ」などとは恥ずかしくて言えないはずです。

日本軍性奴隷問題の本質を理解すべきなのは、朝日新聞だけではありません。他のマスメディアも、日本政府も、日本国民も同様です。そもそも、政府も、マスメディアも、国民も、どうして日本軍性奴隷問題が「〈日本〉対〈韓国〉」の問題ではなく「〈国家〉対〈被害者(と市民)〉」の問題だ、というのが分からないのでしょうか。日本軍性奴隷問題は、決して外交問題などではありません。他ならぬ朝日新聞自身が指摘しているように、人間の名誉と尊厳にかかる問題です。「日韓合意」が破棄されるとしたら、それは文大統領の外交指針が問題なのではありません。被害者の名誉と尊厳の回復に資するどころか、それを妨げる「日韓合意」そのものが問題なのです。このことは、国連の拷問禁止委員会という「第三者(言うまでもなく、第三者性に関して、国連拷問禁止委が国連においてどのような位置づけであるかは、問題ではありません。)」が「日韓合意」の見直しを勧告した*3ことからも、容易に分かるはずです。

結局のところ、日本政府、マスメディア、そして国民にとって、日本軍性奴隷問題は「真に解決しなければならないもの」ではなく、「さっさと片付けてしまいたい厄介事」でしかないのでしょう。それゆえ、平和の少女像を「日本に対する嫌がらせ」だなどと誤解するのです。

日本軍性奴隷問題は、日本国民にとって「他人事」ではありません。日本国民には、日本によるかつての植民地支配や戦時性暴力について、果たすべき「責任」があります。誤解しないでください。それは、個々の国民が被害者に対して直接謝罪するなどということではありません。植民地支配や戦時性暴力を否定する価値観を共有すること、それこそが今を生きる日本国民の果たすべき「責任」です。そして、それは他でもない日本国民自身が、「尊厳ある人間」として生きるために必要なことなのです。

*1:[日本•国際]「慰安婦」“裏合意”なかったと言っていたのに・・・嘘だった http://japan.hani.co.kr/arti/international/29369.html

*2:(社説余滴)韓国が断つべき本当の悪弊 箱田哲也:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/DA3S13294834.html

*3:国連拷問禁止委、日韓合意の見直し勧告 慰安婦問題で:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASK5F1SKYK5FUHBI001.html