あしべの自由帳

芦部ゆきとが言いたいことを書き綴るだけの、そんな「自由帳」です。

「軍艦島」の片隅に

政府、軍艦島での強制労働なし 徴用工巡り韓国の反発必至
共同通信 https://this.kiji.is/311548453396726881

 

もしかすると、この記事を読んだ多くの日本国民は「元“島民”が『過酷な強制労働の実態はなかった』と証言しているのだから、軍艦島での強制労働はなかったのだろう」と思うかもしれません。ですが、少し考えてみてください。

この記事を読む限りでは定かではありませんが、おそらく証言をした「元島民」は「日本人」でしょう(「島民」という表現も、あたかも証言が客観的で中立的であるとの印象を読者に与えるものです。)。そうして、この「元島民」の方がたとえ「善い日本人」であったとしても、当時の日本と朝鮮の関係の下では、「抑圧者」にほかなりません。しかるに、「抑圧者」の証言だけで、どうして「過酷な強制労働の実態はなかった」ことが“真実”となるのでしょうか。

これに対して、「軍艦島での強制労働はなかった」と主張する人たちは、「それならば、朝鮮人労働者の証言だけで過酷な強制労働の実態があったことにはならないだろう」というかもしれません。たしかに、それはその通りでしょう。しかし、そうであるならば、元島民の証言だけで、過酷な強制労働の実態はなかったことにもならないはずです。それに、そもそも被害者である朝鮮人労働者の証言だけで、過酷な強制労働の実態があったとしているのではありません。過酷な強制労働の実態があったことを裏付ける、合理的な「証拠」がいくつも存在するのです。それを黙殺し、歴史的事実を隠蔽して忘却させることに腐心しているのが、日本政府であり、それを支える「国民」です。

当時の軍艦島の繁栄を理由に、「島は決して地獄島と表現されるような状況ではなかった」と主張する人もいます。軍艦島のある“平和都市”長崎市の田上市長も、その一人です*1。たしかに、「繁栄」も、軍艦島の「一つの事実」でしょう。しかし、「日本人」である“島民”にとって「地獄島」ではなかったからといって、当然に朝鮮人労働者や中国人労働者にとっても「地獄島ではなかった」と言うことはできません。それに、そもそも軍艦島の「繁栄」は、いったい何の上に成り立っていたのでしょうか。

冒頭に掲げた共同通信の記事は、「韓国の反発は必至で、歴史認識を巡る対立が強まり、緊迫化する北朝鮮情勢への対応や早期開催を目指す日中韓首脳会談の日程調整に影響が出る可能性がある」などと、まるで韓国が厄介事を引き起こすと言わんばかりですが、これは「論点ずらし」にほかなりません。問われるべきなのは、歴史的事実を隠蔽して忘却させることに腐心する、日本政府の態度です。いったいマスメディアは、いつまで日本政府による歴史改竄に加担し続けるのでしょうか。

かつての日本による侵略も植民地支配も、疑いを差し挟む余地のない「歴史的事実」です(もっとも、歴史改竄主義者はそれさえも否定するのでしょうが。)。そうである以上、「日本国民」は、何よりもまず、被害者の「声」を真摯に聞くべきです。どんなに耳を塞いだとしても、「歴史的事実」がなかったことには決してならないのですから。

 

[増補改訂版]軍艦島に耳を澄ませば -端島に強制連行された朝鮮人・中国人の記憶

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