尹錫悦大統領の弾劾可決、日韓関係に後戻り懸念 外交や防衛協力は事実上の停止 - 日本経済新聞
韓国国会で14日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾訴追案が可決されたことを受け、日韓外交は事実上の停止状態に陥る。首脳間の意思疎通をテコに関係改善に動いていたが、厳しい状況へ後戻りする懸念が高まる。2025年の国交正常化60年に向けた協力機運にも影響を及ぼす。
今般の尹錫悦・韓国大統領の弾劾訴追案可決に関して、尹錫悦氏の失脚で韓国に「反日政権」が復活し「日韓関係」が再び悪化すると騒ぐ日本人が少なからず見受けられます。そういう日本人は戦後「日韓関係」についての見識が浅いと言わざるを得ませんが、日本のマスメディアに接しているとそうなるのも仕方ないことなのかもしれません。
尹錫悦氏の失脚で悪化するような「日韓関係」とは、いったいいかなるものなのでしょうか。どうやら日本人の多くは、それを「日韓両国の友好親善」のように思っているようです。しかし、尹錫悦氏の失脚で悪化するような「日韓関係」は、「日韓両国の友好親善」とは似て非なるものです。
尹錫悦氏の失脚で悪化するような「日韓関係」とは、日韓の権力層や経済的支配層の利益を確保するための新植民地主義的な日韓「1965年体制」を基礎とする関係です。
「六五年体制」とは、日本(佐藤栄作政権)と韓国(朴正煕政権)が調印した韓日基本条約や四つの協定にもとづいた、現在の韓日関係の出発点となる体制を指す。第一には米国を頂点とする垂直的系列化を基盤とする韓米日擬似三角同盟体制(日米同盟と韓米同盟)である。[……]第二にはこの同盟体制を維持し、その安定性を高めるため歴史問題の噴出を物理的暴力で抑圧するか、コントロール可能な領域におく。
権赫泰『平和なき「平和主義」』
そして、それは日本軍「慰安婦」問題や徴用工問題といった歴史問題に蓋をすることで維持されるもの、すなわち日本軍性奴隷制や日帝強制動員の被害者の犠牲の上に成り立つものです。つまり、自民党政権という日本の右翼政権が尹錫悦政権のような歴史問題をないがしろにして日韓の権力層や経済的支配層の利益を第一に考える*1韓国の「親日派」右翼政権を必要とする関係であり、それゆえ日本軍性奴隷制や日帝強制動員の被害者の尊厳回復を第一に考える進歩派政権が再び韓国に誕生すれば、その関係に綻びが生じるのです。
1987年の韓国の民主化は、強圧的な政権を倒して新植民地主義的な関係である日韓「1965年体制」に綻びを生じさせました。そして、その綻びは李明博―朴槿恵政権という保守政権によって修復されたものの、文在寅政権を生み出した2016~17年の「ろうそく革命」は、再び日韓「1965年体制」に綻びを生じさせました。つまり、日本のマスメディアが肯定的に評価する日韓両国の右翼政権による「日韓の関係改善」とは、「ろうそく革命」によって生じた日韓「1965年体制」の綻びを修復することであり、それは「継続する植民地主義」の体制である日韓「1965年体制」の克服を志向する動きに対する反動なのです。
こうした「日韓関係の改善」は、バイデン米大統領が「日韓関係改善に向けた尹氏の努力が日米韓3カ国の協力強化の礎になった」と評価した*2ことからわかるように、究極的には米国の覇権すなわち米国主導の世界経済体制を守るための米・日・韓三角軍事同盟を維持・発展させることにあります。つまり、日本の政府やマスメディア、そして国民の多くが尹錫悦氏の失脚で悪化することを心配する「日韓関係」は、東アジアの平和と日帝植民地支配の被害者の人権の犠牲の上に成り立つものなのです。
そのような「日韓関係」は、たしかに日韓「1965年体制」が支える米国主導の世界経済体制の恩恵にあずかっている日韓の権力層や経済的支配層、あるいは日帝の不法な朝鮮植民地支配とその下での人権侵害という自国の「負の歴史」を忘れたい日本人にとっては「良い」ものなのかもしれません。しかし、そのような平和と人権をなおざりにした「日韓関係」が本当に良いものだとは、私には到底思えません。