葦辺の車家ブログ

自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない車家(くるまや)ゆきとが感じたこと・考えたことをそこはかとなく書き綴ります。

なぜ日本では周庭さんばかり注目されるのか。

日本人の心つかんだ「民主の女神」 周庭氏はなぜ人気なのか 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

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言うまでもなく、香港のアクティビストは周庭さんだけではありません。それなのに、なぜ日本では周庭さんばかり注目されるのでしょうか。これについては、たしかに日本人に向けて日本語でメッセージを発信しているからだというのもあるでしょうが、決してそれだけではないと思います。

私はいわゆる「オタク」であるので、以下では「オタク」の視点から「なぜ日本では周庭さんばかり注目されるのか」について試論を展開してみたいと思います。

なぜ日本では周庭さんばかり注目されるのか。思うに、それは多くの日本人が、香港の民主化運動を「巨大な『悪の帝国』に立ち向かう、可憐で無垢な『戦闘美少女』の物語」として消費しているからです。つまり、周庭さんは、多くの日本人にとって「巨大な『悪の帝国』に立ち向かう、可憐で無垢な『戦闘美少女』の物語」のヒロインであり、それゆえ日本では周庭さんばかり注目されるのです。もっとも、周庭さんが「日本のメディアで女神と呼ばれるのは好きじゃない」と語っている*1ことに鑑みれば、その設定は日本のメディアが周庭さんに勝手に押し付けたものであるといえるでしょう。

香港の民主化運動を「巨大な『悪の帝国』に立ち向かう、可憐で無垢な『戦闘美少女』の物語」として、そして周庭さんをそのヒロインとして売り出したいという日本のメディアの思惑は、周庭さんを取り上げたテレビ番組の『中国と戦う“民主の女神”』という煽り文句や、周庭さんが「日本のアイドルや邦楽を愛する普通の女の子」であることを日本のメディアがやたら強調する*2点からも見て取れます。もし(日本のメディアが周庭さんに勝手に押し付けた)周庭さんの「設定」(もっとも、周庭さんが「日本のアニメや音楽が大好きで、独学で日本語を習得した」というのは事実なのでしょうけど)が、「(日本人が敵視する)中国と戦う『民主の女神』、でも普段は日本のアニメや音楽が大好きで、独学で日本語を習得した頑張り屋さんな『普通の女の子』」でなかったら、おそらく嫌悪の対象にされたであろうことは、グレタ・トゥーンベリさんや伊藤詩織さんに対する多くの日本人の反応から容易に推察できます。

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日本のアニメや音楽が大好きで、独学で日本語を習得した頑張り屋さんな「普通の女の子」が、“民主の女神”という「美少女戦士」に変身して「北朝鮮」と並んで敵視の対象とされる「悪の帝国」中国と戦う物語というのは、多くの日本人にとってまさに最高のエンターテインメントのはずだ、そんな「売り手」の思惑通りの消費者行動が、周庭さんばかり注目されるという現象なのです。

このように、多くの日本人が香港の民主化運動を「コンテンツ」として消費するのは、つまるところ多くの日本人にとって香港の民主化運動が、どこまでも「他人事」だからでしょう。もちろん、私も「香港の事態は他人事ではない」と言う「良心的日本人」が少なからずいることは承知しています。しかし、本当に彼らが香港の事態を「他人事ではない」と思っているのならば、「近い将来に日本も香港のようになってしまう」などとは言わないはずです。なぜなら、「今日の香港」は、「明日の日本」ではなく、「昨日の日本」であり「今日の日本」なのですから。

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日本人は、日本の真の民主化を成し遂げるためにも、香港の民主化運動を、いまだ日本が真の民主化を成し遂げていないという現実から目を背けつつ「日本は成熟した民主主義の国である」という幻想によって育まれた過剰な自尊心を手軽に満たすために消費する「コンテンツ」にしてはなりません。