葦辺の車家ブログ

自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない車家(くるまや)ゆきとが感じたこと・考えたことをそこはかとなく書き綴ります。

軍艦島に耳を澄ませば聞こえる、被害者の声を聞け。

「軍艦島で朝鮮人差別存在せず」 政府、元島民の証言を一般公開へ | 共同通信

 

おそらく、多くの日本国民は「元島民が『戦時徴用された朝鮮半島出身者への差別的対応はなかった』と証言しているのだから、軍艦島での朝鮮人差別はなかったのだろう」と思うのでしょう。

私は、この「元島民」が嘘の証言をしているなどというつもりはありません。しかし、「戦時徴用された朝鮮半島出身者への差別的対応はなかった」とする「元島民」の証言だけで、本当に朝鮮人差別がなかったといえるのでしょうか。

共同通信の記事からは断定できませんが、おそらく証言をした「元島民」は日本人なのでしょう。そうだとすると、この「元島民」は、たとえ「善い日本人」であったとしても、当時の日本と朝鮮の関係の下では「朝鮮人を差別する側の人間」であることに変わりはありません。しかるに、どうして「朝鮮人差別がなかった」ことが、「朝鮮人を差別する側の人間」の証言だけで「真実」となるのでしょうか。

これに対して、「それならば、朝鮮人労働者の証言だけで朝鮮人差別があったことにはならないだろう」と、「軍艦島での朝鮮人差別はなかった」と主張する人たちは言うでしょう。たしかに、それはそうかもしれません。しかし、それならば同じように「元島民の証言」だけでも朝鮮人差別がなかったことにはならないはずです。それとも、「日本人である元島民の証言は信用できるが、朝鮮人労働者の証言は信用できない」とでも言うのでしょうか。しかし、それもまた朝鮮人差別です。

「平和都市」長崎市の田上富久市長のように*1、当時の軍艦島の繁栄を理由に「島は決して地獄島と表現されるような状況ではなかった」と主張する人も少なからずいます。たしかに、「繁栄」も、軍艦島の「一つの事実」であり、それゆえに日本人である島民にとっては「地獄島」ではなかったのかもしれません。しかし、だからといって当然に朝鮮人労働者や中国人労働者にとっても「地獄島ではなかった」と言うことはできないはずです。それに、その繁栄は、朝鮮人労働者や中国人労働者の犠牲の上に成り立っていたものです。当時の軍艦島の繁栄を理由に「島は決して地獄島と表現されるような状況ではなかった」と主張する人は、そのことを少しでも考えてみたことがあるでしょうか。

歴史修正主義者たちは否定するでしょうが、かつての日帝による侵略や植民地支配は、疑いを差し挟む余地のない歴史的事実です。そうである以上、日帝による植民地主義の犯罪に関して、日本の政府や国民は何よりもまず被害者の「声」を真摯に聞くべきです。それができないのであれば、「かつての日帝による侵略や植民地支配への反省」も、しょせん口先だけのものでしかないでしょう。

 

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