葦辺の車家ブログ

自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない車家(くるまや)ゆきとが感じたこと・考えたことをそこはかとなく書き綴ります。

「韓国大法院の判決は請求権協定に反する」という日本政府の主張は、どこが間違っているか。

ご存知のように、先般韓国大法院が出した徴用工裁判の判決に関して、日本政府は「韓国大法院の判決は、日韓請求権協定に明らかに反する」と主張しています*1。そして、日本の多くのマスメディアも国民も、政府の主張を疑おうともせず「韓国大法院の判決は、日韓請求権協定に明らかに反する」の大合唱です。

しかしながら、「韓国大法院の判決は、日韓請求権協定に明らかに反する」という日本政府の主張は、はっきり言って間違いです。

たしかに、韓国大法院の判決は「日韓請求権協定で個人の請求権は消滅したのであり、それゆえ完全かつ最終的に解決済みである」という日本政府の主張には反するでしょう。しかし、それはあくまでも日本政府の主張にすぎず、韓国大法院の判断を拘束するような「客観的真実」などではありません(なお、11月14日の衆議院外務委員会で、ほかならぬ河野太郎外相が日韓請求権協定で個人の請求権が消滅していないことを認めており、もはや日本政府の主張には根拠がありません*2*3。)。そして、韓国大法院の判断は、「強制動員慰謝料請求権は請求権協定の適用対象に含まれない」とするものですから*4、そもそも日韓請求権協定に何ら抵触するものではありません。つまり、韓国大法院の判決は、日韓請求権協定に「明らかに反する」どころか、むしろ反しないことが明らかであり、したがって「韓国大法院の判決は、日韓請求権協定に明らかに反する」という日本政府の主張は間違いです。それとも、「韓国大法院は、日韓請求権協定を解釈するに際し、日本政府の見解に従わなければならない」とでも言うのでしょうか。しかし、それは(韓国大法院の)司法権の独立どころか、韓国の主権を無視した暴論です。また、日本政府の主張を支持するマスメディアや国民は「過去の盧武鉉政権は日韓請求権協定で個人の請求権が消滅していることを認めていた」ということをしきりに持ち出しますが、司法権の独立に鑑みれば、韓国大法院が過去の政府見解に拘束されなければならない理由はありません。そして、日本のみならず韓国でも条約が違憲審査の対象となることを肯定するのが通説ですから、条約について司法府が過去の政府見解と異なる司法判断を下すことには何ら理論的な問題はありません。

いかがでしょうか。少し落ち着いて考えてみれば、「韓国大法院の判決は、日韓請求権協定に明らかに反する」という日本政府の主張が間違いであることが容易にわかるかと思います。それにもかかわらず、日本の多くのマスメディアと国民が、政府の間違った主張を鵜呑みにして韓国を蔑視し、あるいは韓国への憎悪をたぎらせることに、私は不安と恐怖の念を禁じえません。