葦辺の車家ブログ

自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない車家(くるまや)ゆきとが感じたこと・考えたことをそこはかとなく書き綴ります。

はたして本当に「『慰安婦』問題『日韓』合意」は守るに値するものだろうか

「『慰安婦』問題『日韓』合意」について、日本政府やマスメディア、「『日韓』合意」支持者は、しばしば「国家間の合意だから守られなければならない」ということを強調します。「合意は守られなければならない」というのが原則であるのは、確かにその通りです。しかし、はたしてその原則は絶対的なものでしょうか。

思うに、「『日韓』合意が守られなければならないのは、国家間の『合意』だからである」というのは、決して充分な答えではありません。なぜなら「合意」であっても、それが「有効要件」を欠くものであれば、「守られなければならない」とはいえないからです。そのような「合意」は、取り消されてしかるべきです(あらかじめ告白しておきますと、私は国際法について十分な知識を持ち合わせていません。しかし、*条約法に関するウィーン法48条・49条に鑑みれば、「国家間の合意」についてこのような解釈も可能だと思います。)。

さて、「『慰安婦』問題『日韓』合意」は、加害者である日本の政府を代表して日本の首相が「心からおわびと反省の気持ちを表明」し、(代表の正当性はさておき)被害者を代表する韓国政府がそれを受け入れることで、「『慰安婦』問題」の解決を図ろうとするものです。そうであるならば、なによりもまず日本の「反省の気持ちを表明」が真意に基づくものであることが必要です。しかるに、合意後の日本政府の態度はどうでしょうか。日本政府(と安倍首相)は「『慰安婦』問題」の根源である植民地支配の正当化に腐心し、「『慰安婦』問題」が戦争犯罪であることを否定する発言を繰り返す*1などしています。そして、つい先日には、駐アトランタ日本総領事が「『慰安婦』は売春婦だ」などと日本軍性奴隷被害者を侮辱する妄言を吐くという事件*2まで起こっています。このように日本政府(と安倍首相)が「心からのおわびと反省の気持ち」と矛盾した態度をとり続けていることに鑑みれば、日本の「反省の気持ちを表明」は、それが真意に基づくものであることを否定されても仕方ありません。

残念ながら、日本のマスメディアの論調は、「国家間の合意だから守られなければなら」ず、韓国が合意の履行に難色を示していることがいかに「不誠実」であるかを強調したものがほとんどです。ですが、これまで本稿で述べてきましたように、韓国が合意の履行に難色を示しているのは、日本の「反省の気持ちを表明」の真意性が否定されても仕方ない事情が多々あるからであって、いわば「詐欺的になされた瑕疵ある合意」だからです。そうだとすれば、そのような「瑕疵ある合意」は「有効要件」を欠くものであって取り消されてしかるべきであり、韓国が合意の履行に難色を示すことは、「不誠実」であるどころか、むしろ「法の正義」に沿うものであるといえます。それにしても、日本のマスメディアはどうしてそれが分からないのでしょうか。あるいは、分かってて分からないふりをしているのでしょうか。もし後者なら、マスメディアの本分にもとると言わざるを得ません。

そもそも、「『慰安婦』問題」の解決にとって真に大切なのは、「12・28『日韓』合意」が履行されることでしょうか。日本政府はそう信じて疑わないでしょうが、しかし日本政府が「12・28『日韓』合意」に拘泥すれば拘泥するほど、「『慰安婦』問題」の真の解決からは遠のくでしょう。

 

*条約法に関するウィーン条約

 第48条(錯誤)

① いずれの国も、条約についての錯誤が、条約の締結の時に存在すると自国が考えていた事実又は事態であつて条約に拘束されることについての自国の同意の不可欠の基礎を成していた事実又は事態に係る錯誤である場合には、当該錯誤を条約に拘束されることについての自国の同意を無効にする根拠として援用することができる。
② ①の規定は、国が自らの行為を通じて当該錯誤の発生に寄与した場合又は国が何らかの錯誤の発生の可能性を予見することができる状況に置かれていた場合には、適用しない。
③ 条約文の字句のみに係る錯誤は、条約の有効性に影響を及ぼすものではない。このような錯誤については、第79条の規定を適用する。 

第49条(詐欺)

いずれの国も、他の交渉国の詐欺行為によつて条約を締結することとなつた場合には、当該詐欺を条約に拘束されることについての自国の同意を無効にする根拠として援用することができる。

*1:国連での慰安婦強制連行否定発言 安倍首相が「外務省に直接指示」 http://japan.hani.co.kr/arti/international/23521.html

*2:慰安婦は売春婦」駐アトランタ日本総領事が妄言 http://japan.hani.co.kr/arti/international/27760.html